書評;日本紀行(上) イサベラバード
- 2017/07/31
- 10:17
ご存じ 英国婦人の初期明治の日本奥地への紀行文です。
どれほど読む価値があるのか?と言う点で疑問を持っていた私としては、いままで避けてきました。
毎日わずか30分しかない読書時間では一刻の無駄な時間も惜しいし、価値ある読書のみに時間を有効に使いたいと思っていたからでした。そんなことで宮本常一氏の本書の書評に手をつけた程度であったのですが、意を決して読み始めました。
アマゾンからの引用以下
一八七八年、横浜に上陸した英国人女性イザベラ・バードは、日本での旅行の皮切りに、欧米人に未踏の内陸ルートによる東京‐函館間の旅を敢行する。苦難に満ちた旅の折々に、彼女は自らの見聞や日本の印象を故国の妹に書き送った。世界を廻った大旅行家の冷徹な眼を通じ、維新後間もない東北・北海道の文化・習俗・自然等を活写した日本北方紀行。
感想と書評;
それまで西洋人が日本を驚きの目で日本を探訪してきた本は何冊か読んでいた。
本書の前には民俗学の宮本常一氏の解説抄録などを読んでいたからおおよその予想はつくが、実際の中身については読んでみなければならない。また、明治初期に日本に来た西洋人の旅行記や訪問、見聞記などはいくつか読んできたが女性の目でみた明治初期の日本、それも日本奥地の庶民の中にまで入り込んで観察した西洋人はほぼ皆無なのではないか。
この本の特徴は
ここには、当時の文明化されていない庶民の生活が描かれている。今の日本人と基本的には根っこの部分では変わっていない日本人が息づいている。根っこの部分とは、正直で、懸命に生き、礼儀礼節を重んじ、お上に忠実な忠犬ポチ公のような国民性。そこには西洋婦人が一人で未知の世界を一人で旅をしても少しも危険ではない秩序だった日本が広がっています。
婦人だからこそ、西洋人だからこそ気がつく日本の姿がよくここまで描出できる物だと関心せざるを得ない。着物の、柄や建物の細部に至るまでこんなに詳細に記載する紀行文は見たことがない。あえて男女差別的なそしりを覚悟して言わせてもらえば、女性だからこそそこまで注意の目がとどいたのではあるまいか。
印象にのこった部分は以下
日本の当時のインフラの貧弱さ、災害に対する脆弱さ。そんな中で日本人の生きていく姿はその悲惨な体験を淡々と受け入れていく許容力と生活力に満ちていた。
当時の衛生状態は劣悪であり、皮膚病、眼病が蔓延していた。はえ、のみ、蚊がはびこり、住居にはかび臭さや湿気など健康を害する病気のもととなるような劣悪さがあった。
都市と農村の格差が顕著であった。都市間でもかなり裕福な都市と寂れ、貧乏な都市があった。この当時、東北は久保田(秋田)、山形、黒石など栄えていた都市がいくつもあった。一方、明治期になって没落していった都市もみられた。
当時の日本の馬は、扱いづらく、人にかみついたり、蹴落としたりする制御しがたい馬ばかりの様だった。
当時西洋の医学が東北地方にも伝えられ、日本人の医者が活躍するようになるが、キリスト教の宣教師を通じた医療活動、医学教育が盛んで、これと地方の役所が協力しあいながら医療の普及に努めていたこと。
おもしろいことに東京医学校を出た医者は日本全国に開業できる免許をもつことができたが、地方の医学生は卒業後はその地方でしか開業できなかったなど、現在の日本人の発想を覆すような制度であった。(今でも米国は州ごとの免許になっている)
明治、大正、昭和を通じて秋田、山形には医大はなかったはずであるが、当時すでに医者を志す医学生はバードの訪問時それぞれ100人ぐらいは居たようです。どこでこの医学校、医学生は途中からなくなってしまったのか。私の知識では、薩摩長州の藩閥政治の影響で東日本の医学校は作られず、長い間差別されてきたことであったはず。どこでバードの探訪した当時の医学教育がねじ曲がってしまったのか興味深いことである。
行く先々で著者は、日本の若い女性のしなやかさ、うつくしい仕草、美しさ、細やかなこころ使いを称賛の目で見ていたことを書き添えておきたい。それと悲惨な天災のなかで、美しい日本の自然、風景を驚異の目で見ていたことも。
どれほど読む価値があるのか?と言う点で疑問を持っていた私としては、いままで避けてきました。
毎日わずか30分しかない読書時間では一刻の無駄な時間も惜しいし、価値ある読書のみに時間を有効に使いたいと思っていたからでした。そんなことで宮本常一氏の本書の書評に手をつけた程度であったのですが、意を決して読み始めました。
アマゾンからの引用以下
一八七八年、横浜に上陸した英国人女性イザベラ・バードは、日本での旅行の皮切りに、欧米人に未踏の内陸ルートによる東京‐函館間の旅を敢行する。苦難に満ちた旅の折々に、彼女は自らの見聞や日本の印象を故国の妹に書き送った。世界を廻った大旅行家の冷徹な眼を通じ、維新後間もない東北・北海道の文化・習俗・自然等を活写した日本北方紀行。
感想と書評;
それまで西洋人が日本を驚きの目で日本を探訪してきた本は何冊か読んでいた。
本書の前には民俗学の宮本常一氏の解説抄録などを読んでいたからおおよその予想はつくが、実際の中身については読んでみなければならない。また、明治初期に日本に来た西洋人の旅行記や訪問、見聞記などはいくつか読んできたが女性の目でみた明治初期の日本、それも日本奥地の庶民の中にまで入り込んで観察した西洋人はほぼ皆無なのではないか。
この本の特徴は
- 明治初期のイギリス女性の目で見た変化し、西洋化しつつある日本を描写していること
- 西洋婦人という女性の目から見た日本女性の当時の置かれた立場、地位を詳細に記載していること
- 当時の西欧人男性がほとんど行かなかった日本の奥地にまで分け入り、庶民の生活、生業、考え方を書いている点。(迷信や信仰、キリスト教徒からみた視点かもしれないが、それなりに日本を受け入れている)
- 食物が十分に調達できない場面では日本庶民と同じような食事をし、衣服をまとい、災害の中をたった一人の通訳をつれて横浜から青森まで危険を冒してまで、強い意志を持って旅をした。
- 記載は当時の日本人庶民の服装、風習(結婚、葬式)、祭り、住居、インフラ、景色、植生、醫學など多岐に及ぶ。
ここには、当時の文明化されていない庶民の生活が描かれている。今の日本人と基本的には根っこの部分では変わっていない日本人が息づいている。根っこの部分とは、正直で、懸命に生き、礼儀礼節を重んじ、お上に忠実な忠犬ポチ公のような国民性。そこには西洋婦人が一人で未知の世界を一人で旅をしても少しも危険ではない秩序だった日本が広がっています。
婦人だからこそ、西洋人だからこそ気がつく日本の姿がよくここまで描出できる物だと関心せざるを得ない。着物の、柄や建物の細部に至るまでこんなに詳細に記載する紀行文は見たことがない。あえて男女差別的なそしりを覚悟して言わせてもらえば、女性だからこそそこまで注意の目がとどいたのではあるまいか。
印象にのこった部分は以下
日本の当時のインフラの貧弱さ、災害に対する脆弱さ。そんな中で日本人の生きていく姿はその悲惨な体験を淡々と受け入れていく許容力と生活力に満ちていた。
当時の衛生状態は劣悪であり、皮膚病、眼病が蔓延していた。はえ、のみ、蚊がはびこり、住居にはかび臭さや湿気など健康を害する病気のもととなるような劣悪さがあった。
都市と農村の格差が顕著であった。都市間でもかなり裕福な都市と寂れ、貧乏な都市があった。この当時、東北は久保田(秋田)、山形、黒石など栄えていた都市がいくつもあった。一方、明治期になって没落していった都市もみられた。
当時の日本の馬は、扱いづらく、人にかみついたり、蹴落としたりする制御しがたい馬ばかりの様だった。
当時西洋の医学が東北地方にも伝えられ、日本人の医者が活躍するようになるが、キリスト教の宣教師を通じた医療活動、医学教育が盛んで、これと地方の役所が協力しあいながら医療の普及に努めていたこと。
おもしろいことに東京医学校を出た医者は日本全国に開業できる免許をもつことができたが、地方の医学生は卒業後はその地方でしか開業できなかったなど、現在の日本人の発想を覆すような制度であった。(今でも米国は州ごとの免許になっている)
明治、大正、昭和を通じて秋田、山形には医大はなかったはずであるが、当時すでに医者を志す医学生はバードの訪問時それぞれ100人ぐらいは居たようです。どこでこの医学校、医学生は途中からなくなってしまったのか。私の知識では、薩摩長州の藩閥政治の影響で東日本の医学校は作られず、長い間差別されてきたことであったはず。どこでバードの探訪した当時の医学教育がねじ曲がってしまったのか興味深いことである。
行く先々で著者は、日本の若い女性のしなやかさ、うつくしい仕草、美しさ、細やかなこころ使いを称賛の目で見ていたことを書き添えておきたい。それと悲惨な天災のなかで、美しい日本の自然、風景を驚異の目で見ていたことも。
- 関連記事
-
- 朝鮮紀行 イサベラバード 2019/01/03
- 書評;日本紀行(上) イサベラバード 2017/07/31
- 書評 なぜ若者は3年で辞めるのか 2017/07/24
- 書評;さらば戦時経済1940年体制 2017/07/16
- 書評;ときめいていますか?愛はなぜ終わるのか 2017/07/10
- 書評;日本の医療の格差は9倍 2017/07/08
- 帝国の慰安婦 常識的に考えればこの本は 2017/06/14
- 日本を創った12人マッカーサーの考えたこと 2008/02/02
スポンサーサイト
- テーマ:ノンフィクション
- ジャンル:本・雑誌
- カテゴリ:★読んだ本-まとめと書評
- CM:0
- TB:0